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山口地方裁判所 平成12年(わ)136号 判決

主文

被告人を懲役八月に処する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、

第一  公安委員会の運転免許を受けないで、平成一二年三月一五日午前一一時五一分ころ、山口県防府市大字台道国道二号下り四六五十一・三キロポスト付近道路において、普通乗用自動車を運転し

第二  前記日時場所において、法定の最高速度(六〇キロメートル毎時)を二七キロメートル超える八七キロメートル毎時の速度で前記自動車を運転して進行し

第三  公安委員会の運転免許を受けないで、同年九月一三日午前四時四六分ころ、同市駅南町七番二二号付近道路において、普通乗用自動車を運転し

たものである。

(証拠)省略

(判示第一、第二の事実にかかる起訴手続について)

弁護人は、判示第一、第二事実にかかる起訴(平成一二年(わ)第一三六号事件)について、検察側のミスを被告人の不利益に転嫁するもので公訴権の濫用である旨主張する。

本件記録上、被告人が当初右各事実により平成一二年五月一一日付けで防府簡易裁判所に略式起訴されたこと、同裁判所が右同日、被告人に対し罰金九万八〇〇〇円に処する旨の略式命令を発したこと、防府区検察庁検察官が翌同月一二日付けで右略式命令に対する正式裁判請求をしたこと、その後同年六月二六日付けで同裁判所は刑事訴訟法三三二条によって右事件を当裁判所に移送したこと、以上の事実が明らかである。

被告人は、後記のとおり累犯となるべき道路交通法違反(無免許運転)前科二犯を含む多数回の無免許運転による服役前科を有するのであって、右略式起訴にはなんらかの過誤(検察官の主張によれば、被告人の前科不申告及び所轄警察署担当者が被告人の生年月日を誤記して前科照会したためであるという。)があったと推認できる。しかし、略式命令に対する正式裁判の請求が、被告人のみならず検察官にも認められることは刑事訴訟法四六五条一項の定めるところであって、検察官のした前記正式裁判請求はなんら法規に違反するものではないし、検察官に何らかの不当な意図があったと窺うべき事由もない。したがって、被告人の前科不申告の有無如何に関わりなく、検察官の右措置を違法あるいは権限の濫用ということはできない。

(累犯前科)

一  事実

1  平成八年七月二六日、山口地方裁判所徳山支部において、道路交通法違反罪により懲役七月に処せられ、平成九年二月二二日刑執行終了

2  その後犯した道路交通法違反罪により、平成一一年二月一二日、広島高等裁判所において懲役六月に処せられ、平成一一年八月一〇日刑執行終了

二  証拠(省略)

(法令の適用)

罰条       判示第一の行為 道路交通法一一八条一項一号、六四条

判示第二の行為 道路交通法一一八条一項二号、二二条一項、同法施行令一一条

判示第三の行為 道路交通法一一八条一項一号、六四条

刑種の選択    いずれも懲役刑選択

累犯加重     刑法五九条、五六条一項、五七条

併合罪加重    刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(最も犯情の重いと認める判示第三の罪の刑に法定の加重)

訴訟費用の不負担 刑事訴訟法一八一条一項ただし書(月収四~五〇万円との供述に照らせば負担させるのが相当であるが、服役中の支出等を考慮し、あえて負担させないこととする。)

(情状等)

本件は、被告人による二件の無免許運転及び速度違反一件の事案であるが、被告人は、無免許運転ないしこれを含む事案によって過去一〇回処罰され、内前記累犯前科の事案を含む八回は懲役刑の実刑判決を受けて現実に服役している。しかるに被告人は、前刑執行終了後約七か月にして判示第一の無免許運転及び第二の速度違反を犯し、更に両事件での第一回公判(被告人は故意に出廷しなかった。)の後に判示第三の無免許運転に及んだものである。

しかも、被告人は、前刑における無免許運転車両を当時は処分したとしながら、間もなく再取得し、これによって判示第一、第二の違反を犯し、その後右車両は処分したが、新たに自ら別車両を取得し、これによって判示第三の違反に及んでいる。被告人は、免許を有する第三者に運転させていたというが、被告人の妻の供述調書によっても、被告人が再三無免許運転に及んでいることが窺われる。また、被告人は、緊急の必要性があったともいうが、判示第一、第二の行為の際、真実妻を病院に運ぶ必要性があったとしても、タクシーあるいは救急車の利用が可能であって、真にやむを得ない事態であったとは認められない。判示第三の無免許運転の動機については被告人は明らかにしないが、同乗者の供述調書によれば、何の緊急性も必要性も窺うことはできない。なお、被告人は、慈善活動をしていることを強調するようでもあるが、慈善活動をもって無免許運転の免罪符とできないことは多言を要しない。

被告人は、元々運転免許を取得したことがないのに、右のように自ら車両を取得、保有し、無免許運転を重ねていたのであって、被告人の無免許運転に関する規範意識は著しく鈍麻し、無免許運転は習癖化していると認めざるを得ない。

そうすると、被告人がある程度高齢で、呼吸器機能障害による身体障害者一級の認定を受けていること、現在も健康状態が優れないこと等の事情を考慮しても、主文掲記の量刑はやむを得ない。

(求刑・懲役一年)

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